仮想環境におけるマルチタスクでの認知アシスト

スマートグラスの発展により、拡張現実(AR)の活用が期待されている一方で、ARナビゲーションが注意の分配を妨げ、重要な情報を見逃すリスクが指摘されている。人間の注意には「選択的注意」の機能があるが、同時に「非注意性盲目(IB)」が発生することで、周囲の変化に気づきにくくなる。この問題に対応するため、ARナビゲーションの利用時に不快感を伴わずに注意を適切に分配させる手法が求められている。

そこで、本研究では、視線アシスト技術を用いた注意分配の向上手法を提案する。具体的には、以下の4種類の視線アシスト(Assist A~D)を設計し、ARナビゲーションにおける注意の誘導と分散を実現することを目指した。

  • Assist A: 動的なオブジェクトを用いて視線を目標方向へ自然に誘導する。
  • Assist B: ARナビゲーションの矢印を半透明表示にすることで、特定の視覚情報に集中しすぎるのを防ぐ。
  • Assist C: 視界全体に色フィルターを適用し、視線の偏りを抑えつつ注意の拡散を促す。
  • Assist D: 瞬きの延長を利用し、視覚情報のリセット効果を強化して注意のリフレッシュを促す。

本研究では、VR環境を用いた実験を実施し、矢印タスク(ARナビゲーションのシミュレーション)と視線タスク(周辺視野の認識)を通じて、各アシストの効果を検証した。その結果、視線タスクでは全てのアシストがパフォーマンス向上に寄与し、ARナビゲーションの注意分配を改善する可能性が示唆された。また、Simulator Sickness Questionnaire(SSQ)の評価により、提案したアシストが不快感を伴わないことが確認された。

本研究の成果により、ARナビゲーションの安全性向上に貢献し、視線アシスト技術を活用した認知アシストの新たな可能性を示すことができた。今後は、個人差や使用環境による影響を詳細に分析し、リアルタイムで最適なアシストを提供するシステムの開発を目指す。

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