近年,ヒトの姿勢に関連する健康被害の増加が懸念されています.例えばそれらの健康被害には,不良な着座姿勢が引き起こす腰痛や肩凝り,あるいは長時間同じ姿勢で寝たきりになることが原因となる褥瘡(床ずれ)などが含まれます.こうした問題を解決するために,現在様々な角度からヒトの姿勢改善への方策が議論されています.
最も一般的な姿勢解析法として挙げられるのは,医師や看護師による『診察』です.幅広い知見から導き出される診断結果は説得力が高いでしょう.しかしながら,その診断結果には当然ながら主観的要素が多分に含まれています.また,不良姿勢は日常的に起こりうる状態であることから,改善には定期的な通院が必要となってしまいます.
定量的な手法の代表例としては,カメラを用いた解析が挙げられます.映像による診断結果は高精度であり,尚且つ日々の生活に取り入れることは容易でしょう.その一方で,カメラで四六時中姿勢の分析をされるということは,ユーザの日常生活に干渉してしまう問題があります.すなわち,プライバシーに関する問題が発生してしまうのです.
そこで,本研究では定量的でプライバシーに関与しない手法,『圧力分布』に注目しました.この解析法は,床に発生する力の分布を測定する事で姿勢を分類するというものです.圧力分布の測定装置として,我々は下図に示すような『網型圧力センサアレイ』を開発しました.測定面に掛かる力を側面に配置されている力センサが測定し,圧力分布を推定します.測定面はワイヤの網によって構成されており,日々の生活に溶け込めるようなクッション性を兼ね備えています.
網型圧力センサアレイの大きな特徴はもう1つ存在します.それは『フォースフィードバック』が可能な点です.力を測定するために設置していたワイヤを,仮にアクチュエータで引っ張ってみたら何が起こるでしょうか.ワイヤを引っ張る,すなわち張力が増加するということは測定面が『押し返される』ことを意味します.このように,ワイヤを用いた網型圧力センサアレイでは,圧力分布の測定のみならず,フォースフィードバックの機能も兼ねることが可能となります.
一本一本の『ワイヤ』が力を測定,あるいはフィードバックする網型圧力センサアレイ.この技術は定量的かつヒトのプライバシーに関与しない姿勢解析を可能とし,さらに姿勢の矯正を促す力覚の提示も可能とします.通院を必要としない手軽さも備えていることから,幅広いユーザをターゲットとしたシステムの構築を日々目指しております.
主な発表論文
- 齋藤 幹, 五十嵐洋: “姿勢解析のための網型圧力アレイセンサ”, ビジョン技術の実用化ワークショップ(ViEW2016), 2016/12/08.
- Miki Saito, Hiroshi Igarashi: “Net-type Pressure Sensor Array for Posture Analysis,” The 2017 RISP International Workshop on Nonlinear Circuits, Communications and Signal Processing (NCSP’17), 1AM1-2-4, 2017/03/01
- 齋藤幹,五十嵐 洋: “姿勢解析のための網型圧力センサアレイ”,日本機械学会情報知能精密機器部門講演会 IIP2017,PI4,2017/03/14
- 齋藤幹,五十嵐洋:“姿勢解析のための網型圧力センサアレイ”,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会’17, 2A1-I02, 2017/05/12
- 齋藤 幹, 五十嵐 洋: “張力制御機構を用いた姿勢解析用網型圧力センサアレイによる圧力分布測定”,第18回 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,3C5-09,2017/12/22